2024年8月、内閣官房は「ジョブ型人事指針」を公表し、多様な企業の導入事例を紹介しました。従来の「メンバーシップ型人事」からの転換を進める動きが加速する中、この指針は、職務に基づいた人事制度の導入を推奨し、企業の競争力を高めることを目指しています。本記事では、「ジョブ型人事指針」の骨子とともに、代表的な導入事例をもとに、その背景やメリット、課題について解説します。
参考:ジョブ型人事指針(内閣官房)
ジョブ型人事指針の背景と目的
「ジョブ型人事」とは、個々の職務に応じたスキルや責任を明確にし、それに基づいて人材を配置・評価する人事制度です。内閣官房が2024年6月に策定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」では、労働市場の流動性を高めるためにジョブ型人事の推進が不可欠とされています。従来の日本型雇用システムでは、社員のキャリアは会社に依存しがちでしたが、ジョブ型人事では、個人が主体的にキャリアを選択し、スキルを磨くことが強調されています。この転換により、企業は社内外の優秀な人材をより柔軟に確保できるようになります。
ジョブ型人事の骨子
ジョブ型人事指針は、企業が導入すべき基本的な要素を定めています。主な骨子としては、以下の項目が挙げられます。
職務記述書(ジョブディスクリプション)の明確化
各職務に求められるスキルや責任を明確にし、それに基づいて人材を評価・配置します。これにより、年功序列から脱却し、職務に応じた公平な評価が可能となります。
リスキリング支援
従業員が自らスキルを習得し、キャリアアップを目指せる環境を整備します。上司との相談のもと、必要なトレーニングを受け、成長する機会を提供します。
社内外の人材流動性の促進
ジョブ型人事の導入により、社内のポストの透明性が高まり、従業員が自ら手を挙げて新たな職務に挑戦できる環境が整います。さらに、社外からの経験者採用の拡大も視野に入れています。
富士通株式会社のジョブ型人事導入事例
富士通は、2019年から「IT企業からDX企業への変革」を目指して全社的な経営改革を進め、その一環としてジョブ型人事を導入しました。2015年頃、若手社員の外資系企業への転職が増加し、報酬面や昇進スピードにおける外資との競争力低下が深刻な課題となりました。この危機感から、人事制度を刷新し、社員の自律的なキャリア形成を支援するために、ジョブ型人事制度を導入しました。
ジョブ型人事の導入後、経験者採用やリスキリングプログラムの利用が急増し、社員のキャリア自律意識も向上しました。富士通の事例は、企業が競争力を維持し、社内外の人材を引きつけるための有効な手段としてジョブ型人事が機能することを示しています。
日立製作所のグローバル人事管理とジョブ型人事
日立製作所は、グローバルでの競争力を高めるために、全世界の社員を対象としたジョブ型人事制度を導入しました。同社は、組織設計を経営戦略から逆算するアプローチを採用し、必要なポジションを定義して、最適な人材を配置しています。
また、日立は「見える化」を強調し、社員が自身のキャリアとパフォーマンスを可視化できる環境を整えています。この制度により、適材適所の人材配置が進み、従業員の成長マインドの醸成が期待されています。特に、女性社員の活躍推進にも効果があり、復職後の柔軟な職務配置が可能になっています。
ジョブ型人事の今後の展望と課題
ジョブ型人事制度の導入は、企業の競争力を強化し、従業員のキャリア自律を促進するための重要な施策です。しかし、導入にあたっては、いくつかの課題も浮上しています。
職務記述書の整備の負担
企業は職務記述書を作成する必要があり、特に大企業では膨大なポジションの定義に時間とリソースを割かなければなりません。
社員の意識改革
「メンバーシップ型人事」に慣れている従業員にとっては、ジョブ型人事への移行が心理的な抵抗を伴うことがあります。特に、評価基準や報酬体系の透明性が従業員にどう受け入れられるかが課題となります。
リスキリングの重要性
ジョブ型人事では、個々のスキルが重視されるため、従業員が継続的に学び続ける環境を提供し、リスキリングの支援が不可欠です。
まとめ
「ジョブ型人事指針」は、日本企業の雇用制度を抜本的に見直し、競争力を強化するための重要なフレームワークです。職務に基づく公平な評価と報酬制度、社内外の人材流動性の向上、リスキリングの支援など、企業の成長と従業員のキャリア自律を同時に推進するための要素が含まれています。富士通や日立製作所の導入事例からも分かるように、ジョブ型人事は、今後の日本企業の成長戦略において重要な役割を果たすでしょう。
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