

米国税法のSection174は、研究開発(R&D)費用の即時損金化を制限し、2022年以降は5年または15年で償却する制度に変更されました。この改正は一見会計処理の話に見えますが、実は人員削減などの経営判断にまで影響を及ぼしています。スタートアップを中心に、この変更がキャッシュフローを圧迫し、リストラを余儀なくされるケースも増加中です。本記事では、Section174改正が企業にどのような影響を与え、リストラとどう関係しているのかをBizDev視点で解説します。
Section174は、企業が行う研究開発(R&D)にかかる支出の税務上の取り扱いを定めた米国税法の条文です。かつては、R&D費用は発生年度に一括して損金計上することが認められていました。しかし、2017年に成立したTax Cuts and Jobs Act(TCJA)の施行により、2022年からは国内のR&D支出は5年、海外は15年での償却が義務付けられました。つまり、企業はR&Dにかかる支出を年度内に経費として認識できず、毎年分割して費用化しなければならなくなったのです。この制度変更は企業のキャッシュフローに直接影響し、特にR&Dに依存する企業にとっては重い負担となっています。
企業にとってキャッシュフローは命綱です。R&D支出が即時損金計上できないことで、当期の利益が見かけ上増加し、その分だけ納税額が増えるという逆転現象が発生します。その結果、税引き後のキャッシュフローが減少し、資金繰りが急激に悪化します。これにより、スタートアップや中堅テック企業の中には、資金確保のために人件費を削減せざるを得ない状況に追い込まれています。つまり、税制変更が直接的にリストラの引き金となっているのです。経費圧縮の第一手として、成長部門であるR&Dを支える人材を削減するのは、本末転倒なジレンマでもあります。
会計上、費用(経費)として処理できると、その分だけ課税所得が減少し、支払う法人税も減ります。従来、R&D費用は発生年度に一括で費用計上できたため、その年の税負担を大きく軽減することができました。ところが、Section174改正後は支出を「資産」として扱い、5年(国内)または15年(海外)かけて償却する必要があります。つまり、実際にはその年に支出した現金があるのに、税務上は少しずつしか経費として認められないのです。
その結果、企業の税務上の利益が実態よりも多く見積もられ、支払う税金が増えます。税金の支払いは現金によるアウトフローを伴うため、手元資金が圧迫され、資金繰りが厳しくなります。これが、リストラやプロジェクトの凍結といった経営判断に波及する要因となっているのです。
2023年から2024年にかけて、米国のテック系スタートアップでレイオフが相次ぎました。特にSaaS企業やAI関連ベンチャーは、多額のR&D支出を行っていたため、Section174改正の影響を直撃。資金調達が難航する中、キャッシュフローの改善を迫られ、人件費の削減に踏み切る企業が急増しました。たとえば、あるシード期スタートアップでは、従業員の30%以上を削減する決定を下した背景に、Section174に起因する納税額の急増がありました。これは一企業だけの事例ではなく、VCや業界団体も「税制改正がイノベーションの妨げになっている」と警鐘を鳴らしています。
BizDevとしては、まず自社のR&D支出と税務処理の見直しが不可欠です。会計チームや税理士と連携し、償却対象となる費用の棚卸と、来年度以降の納税額見通しを正確に把握する必要があります。また、資金繰りへの影響を緩和するため、研究開発の優先順位を再定義し、外部リソース活用や助成金の活用も検討すべきです。
特に、米国に子会社や研究開発拠点を持つ日本企業、あるいは米国市場への進出を図る日本発スタートアップにとって、Section174は直接的なビジネスリスクとなり得ます。米国法人で発生するR&D支出は、本規定の対象となり、現地での税務申告と資金計画に影響を及ぼします。したがって、日本本社側で戦略や予算配分を担うBizDev担当者も、現地CFOや税務アドバイザーと密に連携し、制度の影響を先読みしたアクションが求められます。
加えて、日米間で税務方針やレポーティング基準の整合性を取ることは、長期的な財務健全性の維持に直結します。戦略的な事業投資と税務リスクのバランスをどう取るかは、今後のグローバルBizDevにとって重要な経営判断の一部となっていくでしょう。
現在、米国議会では「American Innovation and R&D Competitiveness Act」として、Section174の即時損金化復活を求める動きが進行中です。2025年春には下院財務委員会で改正案が可決され、年内の法制化が視野に入っています。これが成立すれば、2022年以降の支出に対しても遡及適用される可能性があり、多くの企業にとって追い風となるでしょう。ただし、政局によって進捗は左右されるため、BizDev担当者は常に最新情報を追い、迅速な意思決定ができる体制を整えておくことが求められます。
Section174の税制改正は、企業のキャッシュフローを圧迫し、結果としてリストラを引き起こす重大な要因となっています。特にR&D型のスタートアップにとっては深刻な打撃であり、今後の法改正動向を見据えた対応が急務です。BizDev担当者は、会計・財務・政策動向を横断的に捉え、戦略的な判断とアクションを取ることが求められます。
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