BizDev

今こそ、堅実成長を実現する「ソリッドベンチャー」に注目しよう

ご覧いただいている「BizDevキャリア」では、これまでBizDev領域で活躍するビジネスパーソンへのインタビューを中心に行ってきました。

今回は、ベンチャー・スタートアップへ投資するVCの視点から、直近の市況や求められるビジネスモデルについて考えていきたいと思います。

インタビューしたのは、堅実成長を続けるベンチャー企業を意味する「ソリッドベンチャー」という言葉の生みの親であるエンジェルラウンド株式会社の大越さん。「ベンチャー通信」や「ベストベンチャー100」などのサービスを手掛けるイシンでの事業責任者やSkyland Venturesでのスタートアップ投資やグロース支援の経験を経て、2023年5月よりVCとして独立した大越さんに、同社が提唱する「ソリッドベンチャー」へ注目する理由やその背景について語っていただきます。

「ソリッドベンチャー」に注目した理由

イシンで中小企業やベンチャーの社長と数多く出会う中で、スタートアップや起業に興味を持ち、Skyland Venturesを経て自らVCを立ち上げた大越さん。

既存VCの多くが政府や金融機関、事業会社などをLPとしてファンド組成を行うのに対し、エンジェルラウンドでは上場・非上場企業の経営者やEXIT経験者などの個人投資家からの資金を主軸としてファンド組成を行い、シードやプレシードといったアーリーステージの企業へ500万円から3,000万円のチケットサイズでの投資をメインに行っています。

大越さん

スタートアップにとってVCから資金調達する価値というのは、単に資金需要を満たすだけではなく、その後のグロース支援にこそ価値があると考えています。その観点で考えたときに、金融機関や事業会社の担当者が窓口となるのではなく、ご自身でも経営経験のある個人投資家がLPとなり、経営者目線でのアドバイスや人脈を提供することが重要ではないかと考え、エンジェルラウンドではそうした個人投資家をLPの中心に据える形を実現しました。

こうした個人投資家にしっかりとリターンを返すために、多産多死を前提とする、いわゆる「Jカーブ」での成長が期待される企業への投資よりも、創業当初からしっかりと売上・利益を出し堅実成長が期待できる企業への投資をメインに行っていくことにしました。

「Jカーブ」的な成長を実現できることはもちろん価値があると思っていますが、そこはすでに多くのVCが存在しており、かつ「運ゲー」の要素が強いのもあり、エンジェルラウンドではそれ以外の領域にフォーカスすることにしました。

ただ、これまでそうした堅実成長を実現するベンチャー企業を表現する言葉がなかったんですよね。スタートアップとも中小企業とも、スモールビジネスとも少しニュアンスが違う。そこで新たに「ソリッドベンチャー」という言葉を作ることにしました。

成功したベンチャー企業の多くが、実は「ソリッドベンチャー」だった

エンジェルラウンドを設立する際に、グロース市場に上場している企業のビジネスモデルを研究した結果、実は「Jカーブ」のような成長曲線を描く企業は少なく、むしろコンサル・受託・広告・人材など昔から存在する一見地味な印象のある「ソリッドベンチャー」が多いことに着目した大越さん。具体的にどのような企業に注目しているのでしょうか。

大越さん

特にセクターは決めていないのでさまざまありますが、マネタイズポイントとしては話に出たようなコンサル・受託・広告・人材などのビジネスモデルをコアとし、そこにSaaSなど新規のプロダクトを加えて成長加速を狙うようなベンチャー企業に投資しています。

ベンチャー企業側の動機としては、足元はしっかり売上・利益は立っているものの、今後の成長を加速するためにプロダクト開発に取り組みたい、そのためにエクイティ調達を考えているというようなケースが多いです。

当社では、VCとして参画する際にエンジェル投資家も合わせて投資するケースがありますが、そのエンジェル投資家のノウハウや知見、人脈などを成長ドライバーとして期待されていることもあると思います。

投資判断のポイントは、「泥臭いことをやりきれるか」

堅実なビジネスモデルである一方で、新規性という観点では注目を浴びることが難しい面もソリッドベンチャーにはあります。投資先をどのように見つけ、どのように投資判断をしているのでしょうか。

大越さん

ビジネスモデルの手堅さがあるが故に露出しない企業も多いため、ソリッドベンチャーに該当するような投資先を見つけるのは難しい面があります。そのため、こちらからソーシングを積極的に行うことはしていません。

ただ、「ソリッドベンチャー」という言葉を定義し、発信していることで、コンセプトに共感してくれた経営者からSNSを介して月間40件ほど壁打ちの相談が来るようになっており、そこから投資先を見つけています。

そういった企業の多くはすでに堅実な成長を実現しており、中には調達しないほうがいい、という話を私からすることもありますが、その中でも資金調達により成長を加速させられる可能性がある企業は、具体的検討に進めています。

投資判断の際には、B/Sで固定資産比率が高い企業、すなわち大きな設備投資を必要とする企業は避け、流動性の高い資産を持つ企業が投資検討に進むことが多いです。ファンドとしてスモールM&Aを許容し、起業家のEXITの選択肢を広げられるようなスキームにしているため、B/Sに表れる機動力や柔軟性のようなものは大事にしています。

起業家の人物的な面では、自分が営業出身ということもあり、営業活動含め泥臭くやりきることができるかという点はすごく見ていますね。また、この要素に加えて、「よくこのニッチな領域に目を付けたな」というようなユニークネスを持ち合わせていれば、即オファーを出している感じです。

国も後押しする、EXITの選択肢の多様化

エンジェルラウンドが進める「ソリッドベンチャー」への投資方針は、政府が発表した「スタートアップ育成5か年計画」にも影響を受けていると、大越さんはいいます。

大越さん

「スタートアップ育成5か年計画」の中の重点施策であるエンジェル税制とオープンイノベーション促進税制の2つの改正は、スモールEXITという選択肢を肯定、促進する取り組みであり、この流れが今後も加速すると見ています。

従来のVCからの資金調達は主にIPOや大型M&Aをゴールとする動きを支援するものですが、日本のスタートアップ市場の裾野を広げていくためには、スモールEXITもひとつの大きな潮流としていく必要があると自分としても考えており、今回の改正はそれを後押しするものと捉えています。こうした動きも、エンジェルラウンドの投資方針を考えるうえで意識してましたね。

参考:スタートアップ育成5か年計画(内閣官房)

「ソリッドベンチャー」にスポットライトを当てていく

エンジェルラウンドでは、新たに提唱した「ソリッドベンチャー」のコンセプトをより認知してもらい、日本のスタートアップに新たなエグジットの選択肢を広げていくために、「ソリッドベンチャーズ」というオンラインマガジンを立ち上げました。

今後注目のソリッドベンチャーへのインタビュー記事やPodcast、動画などのコンテンツが順次アップされていきますので、ぜひご注目ください。

ソリッドベンチャーズ:https://solid-ventures.media/

取材対象者プロフィール

大越 匠
エンジェルラウンド株式会社 代表取締役 パートナー

2010年に株式会社幕末(現:イシン)に新卒入社。営業職や新規事業立ち上げ、事業責任者などを経て、2022年よりSkyland Venturesへ参画し投資先支援や新規投資を担当したのち、2023年5月に独立し、エンジェルラウンド株式会社を設立。シード・プレシードステージのスタートアップへの投資を行う。

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