生成AI

内閣府が発表した「AIで変わる労働市場」を徹底解説

ChatGPTの登場以降、AI、特に生成AI関連技術の進化は労働市場に大きな変革をもたらしています。内閣府が2024年7月に発表した「AIで変わる労働市場」というレポートでは、AIが職業やタスクにどのように影響を与えるのか、また労働者の属性別に見た影響やリスキリングの重要性について詳述されています。この記事では、その報告書の内容を分かりやすく解説し、AI時代に求められる対応策について考察します。なお、この記事中の引用はすべて本レポートからとなります。

参考:世界経済の潮流2024年第1章 AIで変わる労働市場(内閣府)

本レポートの構成

内閣府が発表したこのレポートは、「世界経済の潮流」というレポートの第1章に位置付けられているものです。「AIで変わる労働市場」と題されたこの第1章では、「AIによる職業・タスクの補完と代替」「労働者の属性別にみたAIによる補完と代替」「AI活用に向けたリスキリングと教育」の3つの要素から構成されています。

AIによる職業・タスクの補完と代替

ai-human

多くのビジネスパーソンが、AIによるポジティブな影響を期待

AIは、人間が従事しているタスクを補完し、時には代替することで、労働市場に大きな変化をもたらします。欧米や中国でAI導入済の企業で働くビジネスパーソンを対象とした調査では、おおむね6~7割の回答者が、「AIが職場に対して肯定的な影響をもたらす」と考えている結果となっています。

日本国内における調査でも、AIの導入によってルーティンワークが減少し、より複雑な問題に対処する業務の割合が増えていくと考えられている結果となりました。ただその一方で、人間がより複雑な問題に専念するようになることでのストレスの増加も懸念としてあがっていることにも触れておきます。

AIは労働を「代替」するとともに「補完」する

先に述べた通り、AIの導入によりこれまで人間が行ってきたタスクのうち、事務的なタスクについては「部分的にはほぼ完全な自動化まで実現され得る」と本レポートでも記載されています。これが、AIの「代替性(Substitution)」の面です。

一方で、「補完性(Complementarity)」についても考えていきましょう。本レポートでは、「翻訳や医療画像の解析、判例検索等」の分野において、労働者の生産性を高め、補完する面があるとしています。これらの仕事は、完全な自動化に社会的な抵抗があることにより、「AIの影響から社会的に保護されている」としています。ただし、こうした仕事も一部自動化が進む中で、雇用の絶対数に関しては減少可能性が高いとみるべきでしょう。

また、これらの影響は、途上国に比べ先進国で先行して発生していくとみられています。

職業別:AIによる影響の大きさと代替性・補完性

  • AIによる影響が大きく、代替性が高い:コールセンター/保険代理人経理事務員/パソコン操作員/総務事務員
  • AIによる影響が大きく、補完性が高い:歯科医師/医師/裁判官/弁護士/教員(高等学校)
  • AIによる影響が小さい:スポーツ指導員/消防士/理学療法士/獣医・家畜検査員/警察官

期待されるのは、AIによる新産業の創出

このレポートの中でも取り上げられているゴールドマン・サックスのレポートをもとにすれば、アメリカにおけるの1940~2018
年の雇用の増加分の85%以上は、技術革新に基づく新たな職業によって生み出されたものであり、既存の雇用において効率化が進む一方で、期待されるのはむしろAIを起点とした新産業の創出と、それによる新たな雇用創出であるとしています。

この推計結果に基づき、Goldman Sachs (2023)は、アメリカの1940~2018年の雇用の増加分の85%以上は、技術革新に基づく新たな職業によって生み出されたものとしている。新たな汎用技術としてのAIについても、既存の雇用では効率化が進み得る一方で、新規分野の雇用を創出する効果が期待される。

労働者の属性別にみたAIの影響

worker

このレポートでは、労働者の属性や性別、年齢ごとにもどのような影響が出るのかについても報告されています。

事務的な仕事の大半はAIに代替される

先述した通り、事務的な作業の割合が多い仕事はAIの影響を大きく受け、その中でも意思決定の重要性が高い医師や裁判官などの仕事はAIにより補完される可能性が高いと指摘されています。一方であくまで意思決定をサポートする仕事である事務的な仕事については、AIによる代替可能性が大きく、多くの雇用がAIに代替されるリスクがあるとされています。

また、AIにより代替される仕事からの転職先もAIにより代替される可能性があり、リスキリングの重要性が語られています。

同じ職業でも熟練度の低いほうがAIの便益を受ける

残酷なことに、AIによる生産性の向上は、熟練度の低い労働者ほど高く、例としてあげられている顧客サポート業務では35%のパフォーマンス向上がみられました。一方で熟練度の高い労働者にはさほど効果がない、という結果が出ています。

女性のほうがAIの影響を受ける可能性が高い仕事に就いている

男女別にみると、英国、アメリカ、ブラジルでは女性のほうが男性よりもAIの影響を受けやすい仕事に就いている割合が高く、代替性の高い職業(コールセンターや事務員など)においても、補完性が高い職業(医師や裁判官など)においても女性比率が高いようです。女性のほうがAIによる雇用の代替リスクを抱える反面、補完性によって生産性向上の可能性もまた高いことがわかります。

教育水準、性別、年齢によってAIの影響が異なることを指摘しています。例えば、高度な教育を受けた労働者はAIを活用することで生産性を向上させる一方で、低技能の労働者はAIによって職を失うリスクが高まります。また、若年層はリスキリングを通じてAI時代に適応しやすい一方で、高齢層は適応が難しくなる傾向があります​​。

教育水準の高い人間にAIの便益は偏る

最後に、このレポートでは、AIが教育水準の高い労働者により大きな影響を与える、としています。これまでのIT技術が定型的な業務の自動化と代替に限られていたのに対して、AIは認知機能にまで及び、より複雑で微妙な判断まで実行できるようになるため、教育水準の高い人間が従事するより専門性の高い業務を補完する可能性が高いとしています。

これまでの自動化では、主に定型的な業務の代替が行われてきた。しかし、AIの能力は認知機能にまで及び、膨大な量のデータを処理し、パターンを認識し、意思決定を行うことを可能にする。微妙な判断、創造的な問題解決、複雑なデータ解釈を必要とする仕事は、従来は教育水準の高い専門家の領域であったが、今後、AIの影響は高度な専門知識を必要とする業務にまで及ぶ可能性がある。ただし、その影響については、AIに代替される可能性のみならず、AIの補完により便益を受ける可能性もあると考えられる。

AI活用に向けたリスキリングと教育

education

AI時代においては、労働者が新たなスキルを習得するリスキリングが重要となります。内閣府のレポートでは、リスキリングの必要性を強調し、各国で進められている教育プログラムや取り組みを紹介しています。特に、デジタルスキルや問題解決能力の向上が求められています​​。

労働者全体でAIリテラシーの向上が必要

本レポートによれば、ここまで述べてきたAIによる雇用減少リスクを減らすためには、労働者全体でのAIリテラシーの向上が不可欠であるとされています。ここでいうAIリテラシーとは、AIの開発ではなく、AIを利用・活用することができるスキルのことを指します。特に、AIの利活用を進めていく中で監督規制の在り方は重要な課題であり、そのためにも行政におけるAIリテラシーの重要性が増している、としています。

AIの利活用を進めていく上で行政による監督規制の在り方は重要な課題である。そのために、行政の質を向上させるためのAIのユーザーとしてのリスキリングだけではなく、AIの監督者として、AIに対して法規制が必要かどうか、どのような種類の規制が必要なのかを判断するためにも、行政におけるAIリテラシーの重要性が増している。

管理職は、AIアルゴリズムへの理解が不可欠

さらに、企業がAI導入により成果をあげていくためには、どの仕事を人間が行い、どの仕事をAIが行うべきか、業務整理を行う必要があり、その際にAIに対して業務の目的を理解させ、目的にあった処理が行われるかを監督するのが管理職に求められるようになる、と説明されています。

すなわち、管理職にはAIのアルゴリズムを理解する力が必要不可欠になる、ということです。

年齢が高くなるほど、リスキリングの必要性は高まる

また、AI技術のリスキリングについては、年齢が高いほどその必要性が高まる、とされています。

主要国に共通して、年齢が上がるにつれてITを活用した問題解決能力27が低くなることがうかがえる。2012年に行われた同調査結果によると、ITを活用した問題解決能力は年齢に反比例して低下していることが分かる。また、ピーク世代と60~65歳の得点を比べると、ピークからの低下幅は、数的思考力よりもITを活用した問題解決能力で大きくなっている。このように、特にITスキルについては、年齢が高くなるにつれてリスキリングの必要性が高まると考えられる。

自律的に学習する能力が低い日本人

最後に、本レポートでは日本人の自律的学習能力の低さについても記載されています。この中で触れられているOECDの「国際学力調査(PISA)」における「コロナ禍のように学校が再び休校になった場合に自律的に学習する自信があるか」という質問に対して前向きな回答をした生徒の割合は日本では40%と突出して低い結果となっています。

こうした能力を養成する上では初期段階における学校教育が重要であるが、日本では、「みんなと同じことができる」「言われたことを言われたとおりにできる」上質で均質な労働者の育成が高度経済成長期までの社会の要請として学校教育に求められてきた。その中で、「正解(知識)の暗記」の比重が大きくなり、「自ら課題を見つけ、それを解決する力」を育成するため、他者と協働し、自ら考え抜く学びが十分なされていないのではないかという指摘もある。

まとめ

この記事では、内閣府が発表した「AIで変わる労働市場」の報告書を基に、AIが労働市場に与える影響や労働者の属性別に見た影響、リスキリングの重要性について解説しました。AIの導入は、職業やタスクの補完と代替を通じて労働市場に大きな変化をもたらし、特にリスキリングが重要な対応策となります。

最後に、本レポートの文末のコメントを引用します。AIによる雇用代替リスクについて嘆くのではなく、AI技術をどう活用できるかをしっかり考えていきたいものです。

AIは与えられた課題を検討、調査することはできるが、課題そのものを設定することはできない。解決するべき課題、目標を定めることは人間にしかない能力であり、AIを活用する上で重要な要素となっている。このような、課題設定といった人間固有の能力を向上させ、AIの能力を最大限に活用できる人材を育成するためにも、自律的な学習能力を向上させることが必要と考えられる。

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ソフトバンク社長室を経て、現在は10社超のCxOや要職を兼任。本業・副業の区別がないプロジェクト型ワークスタイル次のページmikura_001

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