

経営環境の変化が激しさを増す中、既存事業の深化(守り)と新規事業の探索(攻め)の両立が求められています。そんな時代に注目されているのが、書籍『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー著)で提唱された「深化と探索の両立」を志向する経営モデルです。本記事では、事業開発人材がどのようにこの考え方を活かし、現場に実装していくべきかを考察していきます。
『両利きの経営(原題:Lead and Disrupt)』では、企業が長期的に競争優位を維持するためには、「深化(Exploitation)」と「探索(Exploration)」の両立が不可欠であると説かれています。
多くの企業は、短期的な成果やオペレーションの最適化を優先するあまり、深化に偏重しがちです。しかしこの偏りこそが、イノベーションを阻害し、変化に取り残される要因となります。
『両利きの経営』は、このジレンマに真正面から向き合い、両者を“意図的に両立”させるマネジメントの重要性を説いているのです。
参考書籍:両利きの経営(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著/入山章栄監訳/冨山和彦解説/渡部典子訳)
BizDev(事業開発)の役割は、単なる新規事業の立ち上げにとどまりません。既存事業と新規事業の橋渡し役として、組織全体のリソースを再構成し、企業成長を加速させることが期待されています。
だからこそ、BizDev人材には「深化」と「探索」双方の視点が不可欠です。既存事業の業績や文化、プロセスを深く理解しつつ、将来を見据えた新しい価値創出の可能性を探り続ける必要があります。
現場でありがちなのが、新規事業部門が孤立し、既存事業との連携が断絶するケースです。これを防ぐには、BizDev自身が“両利き的思考”を体現する存在となり、社内外のステークホルダーを巻き込んでいく必要があります。
つまり、BizDevこそが「両利きの経営」の実践を牽引するポジションにあるのです。
大企業や成熟した中堅企業では、どうしても「深化」へのバイアスが強くなります。過去の成功体験に基づいた最適化の蓄積や、KPI構造が変化やリスクを避ける方向に働くためです。
たとえば、既存事業で成果を上げてきたマネージャーほど、探索的な試みには「それはうちの文化に合わない」「リスクが高い」と消極的になりがちです。結果として、探索の芽が組織の中で潰されてしまうことも少なくありません。
この“深化バイアス”を乗り越えるには、以下のような取り組みが効果的です:
BizDevはこのような仕掛けをデザインし、組織内の無意識のバイアスを可視化して変革を促す役割を担っています。
『両利きの経営』では、探索と深化の両立を実現するために、以下の3つのアプローチが紹介されています。
探索と深化の組織を分離し、それぞれに合ったマネジメントを行う手法。一定のリソースがある大企業に向いています。
同じ人や組織が、時期によって探索と深化を切り替える方法。リソースが限られる中小企業に適しています。
個人やチームが、状況に応じて探索と深化を柔軟に切り替える能力を持つ形態。最も高度な形であり、文化的素地も重要です。
日本企業が取り組みやすいのは、まずは構造的または時間的な分離から始める段階的アプローチです。BizDev部門が探索ユニットとして機能し、既存事業と協働する“実験場”となるのが理想的な立ち上げ方です。
BizDev人材が「両利きの経営」を推進していくためには、戦略論だけでなく、“実装する力”が問われます。以下の視点とスキルが鍵となります。
探索の成果は中長期的に現れることが多いため、経営陣の意図や戦略を深く理解し、そこから逆算したストーリー設計力が必要です。
既存部門と探索部門の“言語”や“価値観”の違いを橋渡しできるコミュニケーション力が不可欠です。信頼関係の構築が前提になります。
探索活動は試行錯誤の連続。小さく始めて素早く学び、柔軟に軌道修正する力が求められます。デザイン思考やリーンの知見も活かせる場面です。
「両利きの経営」の実現には、“人”の力が何よりも重要です。BizDevがこの変革の中心に立てるかどうかが、企業の未来を左右すると言っても過言ではありません。
『両利きの経営』は、変化の時代における企業の生存戦略です。BizDev人材こそが、深化と探索を架橋するポジションに立ち、組織を変革へと導く存在です。本記事を通じて、理論だけでなく、実践に落とし込むための視点やアプローチを提示しました。今後のキャリアや組織づくりの参考にしてみてください。
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