

エンプロイー・ジャーニーは、従業員が企業と関わるあらゆる体験を可視化し、改善していくためのフレームワークです。単なる入社から退職までの流れを追うだけでなく、個々のタッチポイントにおける感情や課題を深く理解することで、従業員エンゲージメントの向上、ひいては企業の持続的な成長に貢献します。この記事では、エンプロイー・ジャーニーの基本的な概念から、その設計方法、実際の活用事例までを網羅的に解説します。本記事を読み終えることで、人事担当者の方だけでなく、事業開発に携わるビジネスパーソンも、自社の「人」に関する課題を新たな視点で見つけ出し、具体的な改善策を立てるヒントを得られるでしょう。
エンプロイー・ジャーニーとは、従業員が企業で働く中で経験する一連のプロセスを、時間軸に沿ってマッピングしたものです。具体的には、求人情報の閲覧から始まり、応募、面接、内定、入社、研修、日々の業務、評価、配置転換、そして退職に至るまで、すべてのフェーズが含まれます。このアプローチは、顧客体験(CX)の考え方を人事領域に応用したものであり、従業員を「顧客」と捉え、彼らが企業と接触するすべての接点(タッチポイント)における感情や思考、行動を深く理解しようとします。
顧客体験(CX)との共通点は、「体験を可視化し、改善する」という基本的な考え方にあります。企業は顧客が商品やサービスを認知してから購入、利用、そして再購入に至るまでの道のりを分析し、各タッチポイントでの満足度を高めることで、顧客ロイヤルティの向上を図ります。この考え方は、従業員が企業に対して持つロイヤルティ(従業員エンゲージメント)を高める上でも非常に有効です。
一方で、両者の違いは、体験が長期にわたる点にあります。顧客体験は比較的短期間で完結することが多いですが、エンプロイー・ジャーニーは入社から退職まで数年、時には数十年にも及びます。そのため、エンプロイー・ジャーニーの分析では、単一のタッチポイントだけでなく、時間経過による従業員の感情やニーズの変化を捉えることが重要になります。また、従業員は単なるサービスの受け手ではなく、企業文化の担い手でもあります。エンプロイー・ジャーニーを改善することは、従業員一人ひとりのパフォーマンス向上だけでなく、組織全体の活性化にもつながっていくのです。
エンプロイー・ジャーニーマップを作成するためには、いくつかの重要なステップを踏む必要があります。以下の手順を参考に、自社のエンプロイー・ジャーニーを可視化してみましょう。
まず、誰の体験をマッピングするのかを明確にします。新卒入社の社員、中途採用で入社したエンジニア、育児と両立する女性社員など、多様なペルソナを設定することで、それぞれの従業員が抱える課題やニーズを具体的に捉えることができます。
エンプロイー・ジャーニーをいくつかのフェーズに分けます。「認知・応募」「入社・オンボーディング」「育成・評価」「配置・異動」「退職」といった形で、おおまかな流れを定義しましょう。各フェーズでどのような行動が起こるのかをリストアップしていきます。
各フェーズにおける具体的なタッチポイントを特定します。たとえば、「入社・オンボーディング」フェーズであれば、「内定者面談」「入社式」「新入社員研修」「OJT」などがタッチポイントに該当します。各タッチポイントで従業員が何を感じるのか、どのような課題に直面するのかを想像してみましょう。
設定したペルソナとタッチポイントを基に、実際に従業員へのアンケートやヒアリングを実施します。各タッチポイントで従業員が「どのような感情を抱いたか」「何に困ったか」を丁寧に聞き出すことが重要です。このプロセスを通じて、仮説を検証し、具体的な改善点を特定していきます。
ここまでの情報を一つの図にまとめます。縦軸に「フェーズ」「行動」「タッチポイント」「感情」「課題」「改善案」などを、横軸に時間軸を置くのが一般的です。一目で全体像が把握できるように、ビジュアルを工夫することも有効です。
これらのステップを踏むことで、従業員が企業との間で経験する「隠れた課題」や「改善すべき点」が明確になります。
エンプロイー・ジャーニーの改善に取り組むことは、企業に多くのメリットをもたらします。
従業員が企業との接点でポジティブな体験をすることで、企業への愛着や貢献意欲が高まります。これは、生産性の向上や離職率の低下に直結する重要な要素です。
エンプロイー・ジャーニーの課題を特定し、改善することで、従業員が退職を考える原因を取り除くことができます。たとえば、入社後のサポート体制を強化することで、早期離職を防ぐことが可能です。
従業員がポジティブな体験をすることで、企業文化や職場環境に対する良い口コミが広がり、優秀な人材の獲得につながります。これは、採用活動における強力な武器となります。
従業員がストレスなく働ける環境を整備することで、業務への集中力が高まり、結果的に生産性向上につながります。
エンプロイー・ジャーニーの改善は、企業が従業員を大切にするというメッセージを社内外に発信することになります。これにより、従業員が自社のミッションやビジョンに共感し、一体感を持って働くことができるようになります。
エンプロイー・ジャーニーの改善は、単なる人事施策ではなく、企業全体の成長戦略の一環として捉えることが重要です。
エンプロイー・ジャーニーは、さまざまな企業で活用されており、成功事例も増えています。ここでは、具体的な活用事例とその成功ポイントを紹介します。
あるIT企業では、新入社員の早期離職が課題となっていました。エンプロイー・ジャーニーマップを作成し分析した結果、入社後のオンボーディング期間に「何をすればいいか分からない」「既存社員に話しかけにくい」といった課題が浮き彫りになりました。そこで、入社1週間以内にメンター制度を導入し、業務内容だけでなく社内の人間関係についてもサポートする体制を整えました。さらに、定期的な1on1ミーティングを設定し、新入社員が抱える不安を早期に解消する仕組みを構築しました。その結果、新入社員の定着率が大幅に向上しました。
製造業のある企業では、従業員から「評価基準が不明確」という不満が多く寄せられていました。エンプロイー・ジャーニーマップで「評価」のフェーズを深掘りしたところ、評価面談が形式的になっていること、フィードバックが一方的になっていることが判明しました。そこで、評価シートを刷新し、目標設定と達成度合いを可視化。さらに、評価者研修を実施し、建設的なフィードバックを行うためのスキルを習得させました。これにより、従業員は自身の成長を実感できるようになり、仕事へのモチベーションが高まりました。
エンプロイー・ジャーニーを成功させるためには、以下のポイントが重要です。
エンプロイー・ジャーニーは、従業員の視点に立ち、彼らの経験を深く理解するための強力なツールです。単に採用や研修といった個別の施策を改善するだけでなく、企業と従業員との関係性を包括的に見直し、より良い組織を築くための羅針盤となります。
この記事で解説した設計方法やメリットを参考に、自社のエンプロイー・ジャーニーを可視化し、従業員一人ひとりが輝ける環境を整えることで、結果的に企業全体の成長につながるでしょう。顧客体験(CX)と同じくらい、いや、それ以上に「従業員体験(EX)」が重要視される時代。ぜひ、この概念を日々の業務に取り入れてみてください。
本記事では、企業と従業員のあらゆる接点を可視化する「エンプロイー・ジャーニー」について解説しました。これは、顧客体験(CX)の考え方を応用したもので、従業員を「顧客」と捉え、求人閲覧から退職までの体験を分析するフレームワークです。マップを作成することで、従業員の感情や課題を深く理解し、離職率低下やエンゲージメント向上といった多くのメリットにつながります。成功のためには、従業員を巻き込んだ継続的な改善と経営層のコミットメントが不可欠です。
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