
2024年1月、経団連が提言した「労使合意による労働時間規制の除外=デロゲーション」が注目を集めています。一見「自由な働き方」を実現する仕組みに見えるこの提言ですが、その裏には労使の力関係の不均衡や、労働者保護の後退といった懸念も潜んでいます。本記事では、デロゲーションの本質的な意味と、現代の労働法制においてそれが持つインパクトについて、多角的に検証します。
デロゲーションとは何か:労働法制上の位置づけ
デロゲーションとは、法律で定められた規制の適用を特例的に除外する仕組みです。労働法においては、労使の合意があれば、法定の労働時間規制や割増賃金のルールなどを一部適用外にすることが認められる場合があります。日本では36協定に代表されるように、労働時間の上限を一時的に超過することを労使協定によって可能にする仕組みがすでに存在しています。しかし、これはあくまで法の枠内での「限定的な例外措置」であり、際限のない緩和を認めるものではありません。
経団連提言の内容とその背景にあるロジック
2024年1月、経団連は「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を発表し、労働時間に関する法規制の適用除外=デロゲーションの対象を拡大するよう求めました。この提言では、労働者と使用者が合意すれば、企業の実態に即して柔軟な働き方が可能になるとしています。表向きは「自由な働き方の実現」を謳っていますが、実際には使用者が法的規制から逃れ、労働時間の上限や割増賃金の支払い義務を回避できる制度設計を目指しているとも読めます。こうした提案は、企業の負担軽減という経済的利益に基づいているのです。
労使の交渉力格差と制度悪用のリスク
労働者と使用者の間には、根本的な交渉力の格差があります。資本を持つ使用者に対し、労働者は自身の労働力しか持たず、またその労働力はストックもできず、過剰供給が常態化しているのが現実です。労働組合の組織率はわずか16.3%であり、ほとんどの労働者が団体交渉権を行使できない環境にあります。こうした中での「労使合意」による規制除外は、実質的には使用者の意向が強く反映された形になりかねません。特に未組織の職場では、労働者代表が使用者により指名されていることすらあり、制度の公正性が担保されていないのです。
「自由な働き方」をめぐる誤解と真の論点
「自由な働き方」は労働者にとって魅力的に聞こえます。たしかに、フレックスタイム制のように、始業・終業時刻を労働者が柔軟に決定できる制度は、生活と仕事の調和に役立ちます。しかし、労働時間の上限規制や割増賃金の支払い義務といった法的枠組みを撤廃してしまうと、その「自由」は名ばかりのものであり、事実上の長時間労働を強いられることにもつながります。真に議論すべきは、規制の枠内で実現される「労働者主導の柔軟性」か、それとも「使用者主導の規制除外」か、という視点です。
今後の制度設計と労働組合の役割とは
今後の労働制度設計においては、「自由な働き方」と「労働者保護」の両立が課題となります。労働組合は、「自由化」に頭ごなしに反対するのではなく、規制の枠内での柔軟性を求めるべきです。たとえば、健康を損なうような長時間労働の横行を防ぎつつ、生活上の都合に応じた勤務スタイルを認める方向が重要です。労働法には、使用者からの保護だけでなく、労働者間の公正を担保する役割もあります。全体最適の視点から、「規制ありきの自由」を前提とした制度運用が求められます。
まとめ
デロゲーションは、一見「自由な働き方」を実現するかのように見えて、実際には使用者の規制回避手段として機能する恐れがあります。労使の力関係が不均衡な現状では、法による最低基準を維持しつつ、その中で柔軟な働き方を構築する視点が重要です。労働法の本質を見失わず、制度の設計と運用に注意が必要です。
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